事件ファイル
探偵ケイシャと坂の街の猫奇夜行 ニャッキヤコウ

ケイシャの記録:夜に潜む影の正体
夜の坂道には、光よりも速く忍び寄る“静けさ”がある。
それはときに、喧騒を包み隠し、街の輪郭をぼやかせる。 そしてその闇のなかに、奇妙な現象がひっそりと芽吹くのだ。
文京区で囁かれた“猫の行進”。 真夜中に現れる猫たちの群れ。二足歩行の猫。赤い猫の先導。 あまりに奇妙すぎて、誰も真面目に取り合わなかった噂。 しかし私は、それを単なる幻想とは捉えなかった。
なぜなら、この街の傾斜はすべての物語を語るからだ。
猫たちの行動には、ある“パターン”が存在していた。 その傾斜ごとに記録された足音、夜風に混じる低い鳴き声、そして、微かに漂う焼き芋の匂い…。
市民の証言と猫たちの証言を突き合わせるうち、ひとつの事実が浮かび上がった。 この現象の根底には、“集団行動”を促す何らかの仕組みが存在する。 それは偶然か、はたまた意図された何かか──
私は相棒のカクドと共に、猫たちの足跡を辿った。 そして導き出した答えは、誰もが予想しなかった「影の存在」だった。
その影は姿なき導き手であり、猫たちをある場所へと誘導していた。
そこに、真の目的が潜んでいる。

プロローグ
美しき坂の街「ブンキョウ」では、ここ最近、奇妙な事件が相次いでいた。
今このブンキョウを騒がしているのは、とんでもなく斜め上の怪事件だった!
「真夜中に、とんでもない数の猫が行列を成して歩いている」
「二足歩行の猫が、往来を闊歩(かっぽ)している」
「行列の先頭には、怪しげな赤い猫がいた」
「可愛すぎて仕事に集中できない。どうしてくれるんだ」
市民から寄せられる声に対応していたストア警部は、新たに部下のタイラ巡査を署に迎え入れたばかりだった。
新人教育で慌ただしい中、急増する通報に頭を悩ませていた。
猫たちの目的は一体なんなのか。
ストア警部は、坂道探偵ケイシャに捜査を依頼することにした。
坂道探偵ケイシャ──
物事を多角的に捉え、鋭角な切り口で推理をしていく超敏腕探偵である。
彼には「カクド」という名の黒猫の相棒がいた。
猫の助手を従えるケイシャならば、この傾斜の強すぎる事件を解決に導いてくれるかもしれない。
ストア警部は大船に乗った気持ちで、ケイシャのもとを訪れるのだった。
そう、後にあんなことになるとも知らずに――。
謎の始まり


その夜、街には不穏な空気が漂っていた。
「真夜中に、猫たちがぞろぞろと坂道を歩いているのを見た」
「二足歩行の猫が、静かに街角を曲がっていった」
「先頭には、なぜか真っ赤な猫がいたんだ……」
ブンキョウの住人たちが、誰に語るともなく口にする“猫の噂”。
それはやがて、街全体を包むように広がっていった。
これは事件なのか、それとも幻想なのか。市民の不安を受け、ケイシャのもとに再び調査依頼が届く。
そして、猫たちの目的を探る “夜の調査” が始まる。
ケイシャとカクドは、再び猫たちの証言を集めるため、夜の街へと足を踏み出した──。
猫たちの証言
ケイシャと助手カクドは、さっそくブンキョウの街で聞き込みを始めた。
出会ったのは、どうやら“猫奇夜行(ニャッキヤコウ)”の目撃者である3匹の猫たち。だがその証言はどれも謎めいており、すぐには意味が掴めない。
猫Aの証言

「ヤタイのときはこの組み合わせだニャ。オヤツのときはこうなるニャ。」
──彼は、なにやら数字と図形で語るのだが、それが示すのは一体…?
猫Bの証言

「同じ色の蝶を追いかけると、円の中心に何かが見えるニャ!」
──3匹の猫が一斉に蝶を追いかけた時、円の中心に現れる“マーク”とは…?
猫Cの証言

「KL●●NPQ…この中に答えがあるニャ。星の下に隠された記号を探してみるニャ!」
──記号が示すものは? 謎の“欠けた文字”が語るものとは?
探索マップ:目撃猫の足取りをたどれ
猫たちの証言をもとに、猫たちの行動を追って街を巡るケイシャとカクド。果たして「猫奇夜行」の目撃猫はどこにいたのか。彼らの足取りをたどり、夜の坂道に潜む真相を探し出す。
証言から導き出された“手がかり”と一致する場所が、探索ポイントとして地図上に浮かび上がってきた。
現地では、目撃情報の断片が、さらなる謎へとつながっていく。
ケイシャの観察メモ
猫たちの行進は、ただの気まぐれではない。
特定の傾斜と特定の時刻に集中して目撃されている。
焼き芋の匂いに反応している者と、無反応な者が存在する。
赤い猫は常に先頭にいるが、他の猫と明らかに“違う”。
足音のリズムと振る舞いが“人間的”すぎる。
「坂道に現れる影には、単なる偶然では説明できない知性が潜んでいる」
終幕:街に残された影
事件が終わったのは、ほんの一瞬の出来事だった。
夜の坂道を照らす街灯の下、赤い猫の姿は霧のように消えた。 群れをなしていた猫たちは、まるで操られていた記憶が消えたかのように、普段の生活に戻っていく。
誰が何を仕掛け、何のために動いていたのか。
それは、最後まで明らかにされなかった。
ただ一つ、確かに言えるのは―― この街の“傾斜”は、何者かに狙われていたということだ。
そして、その狙いは、おそらく今回が初めてではない。
「ケイシャさん…」 「ん?」 「また来ますかね、赤い猫」 「……来るだろうね。あれは、まだ何も終わっちゃいない」
ケイシャとカクドは、何も語らず坂を見上げる。
夜の傾斜に残された足跡は、誰かが仕掛けた罠の痕跡か、それとも警告か。 ただ、分かっていることは一つ。
この街には、まだ“影”が潜んでいる。
